股関節痛
股関節は足と体幹をつないでいる重要な関節です。しかし、股関節治療の歴史はまだ浅く、西洋医学でも詳しいことがわかっていない関節でもあります。
実際に、股関節の痛みで整形外科に行ったら、これまで何の痛みもなかったのに先天性(生まれつき)の問題と診断され、手術を勧められたということも少なくありません。
ここでは身近な股関節痛の種類、西洋医学で原因とされているものについてご紹介し、各ページで当院の見解と治療方法についてご紹介させていただきます。
また、それぞれのページではお悩み別に対処法、西洋医学での対処法、東洋医学での対処法や当院の見解をご紹介いたします。
▼目次
変形性股関節症
変形性股関節症とは股関節を形成する骨や軟骨がすり減って変性した状態のことです。足側からはまっている大腿骨と骨盤側の受け皿である臼蓋の間で軟骨の減少や骨の変性が進むことで股関節の形状が正常なものから逸脱し、股関節が正常な動きを行えなくなります。
原因は病気によって異なりますが、筋肉の過緊張や股関節の形状が原因で衝突(インピンジメント)を起こすことが知られていて、股関節の状態を確認するための一つの指標になっています。
検査はレントゲンやMRIによる画像診断が主体です。
股関節で痛みを感じる場合、軟骨部分で痛みを感じるわけではありません。軟骨部分に痛覚はなく、インピンジメントなどが原因で起きる組織の挟み込みや炎症で痛みを感じる神経伝達物質(サイトカイン)が放出されます。
このサイトカインを受容体がキャッチした際に痛みを感じます。
初期では疲労した時や寒い日などに股関節の痛みを感じ、歩行や階段の上り下り、車の乗り降りなどで痛みが出てきます。
ひどくなってくると立っているだけでも症状が現れます。まっすぐ立てなくなり、痛みのせいで仰向けで足を伸ばすことができなくなります。また、寝ていても寝返りの際に痛みで目が醒めるなど、日常生活に大きな支障をきたします。
股関節の周りの筋肉を鍛えるリハビリが主流です。(当院の見解は異なります。)
東洋医学では股関節周囲の筋緊張の緩和や血流の改善などを目的に治療します。
痛みの改善を行うことで日常生活は劇的に改善します。
臼蓋形成不全
臼蓋形成不全とは、骨盤側で股関節を形成する部分である臼蓋が発育不良などで小さく、大腿骨の骨頭を充分に覆っていない状態のことをいいます。
臼蓋形成不全を指摘されるのは多くが股関節の痛みを感じたときで、先天性のものと診断されますが、それまでに日常生活で困ることは一切ありません。
また、重度の臼蓋形成不全では股関節のカップが全く無く、関節を形成できていないため先天性股関節脱臼と診断されることもあります。
臼蓋形成不全の症状は、股関節に炎症などの痛みの原因が起きるまでは全くありません。
臼蓋形成不全の原因は幼少期など股関節が形成される時期の過ごし方が影響すると言われています。
ハイハイをあまりしなかったり、つかまり立ちや伝い歩きの時期に歩行器などを使うと股関節の形成が遅れたり、不十分になると言われています。
臼蓋形成不全の診断はレントゲンやMRIによる画像診断で行われます。
臼蓋形成不全の治療は痛みの緩和が目的で保存療法主体で行われます。
消炎鎮痛薬や筋力強化のリハビリテーションで様子を見て、それでも痛みが改善されなければ手術を勧められます。
手術は他の病気と比較して早期に勧められる傾向にあります。
手術後の成績が、35歳以下とそれ以上で疼痛改善に大きな差があるからです。
しかし、臼蓋形成不全の手術をした方を集めた研究では、20年以内に再手術になった人が多く、長期的に見て結果が安定しているとは言えません。
東洋医学では漢方薬や鍼灸、マッサージ、ヨガなどが効果的です。
臼蓋形成不全では、骨の状態は生まれつきで東西医療ともに改善することはできません。
しかし、生まれつきの骨の形状は変化できなくても、臼蓋形成不全に悩む方は少し前までは痛みのない快適な日常生活を送っていたはずです。
身体の状態を以前と同様に整えることで痛みを改善し、軟骨部分への負担を限りなく減らし血流を改善させることで股関節の軟骨は再生します。
先天性股関節脱臼
先天性股関節脱臼とは、生まれつき股関節を形成する臼蓋が形成されず、股関節が関節の体を成していない状態のことを言います。
股関節が常に脱臼している状態ですが、痛みのない状態で生活することが可能です。
急性期の関節脱臼では、高確率で関節面の軟骨の損傷及び骨折が起こります。また、筋肉が過剰に引き伸ばされ、部分断裂や伸張反射による収縮時痛が起こることで痛みが出ます。
先天性股関節脱臼では、骨折や軟骨の損傷はなく、また、周囲の筋肉がその状態で発達しているため実は痛みなく生活を送ることが可能です。
先天性股関節脱臼の痛みの原因は、股関節を支えている筋力の低下に伴う負荷の増加や、それに伴う靭帯の炎症、骨や軟骨の変性によるものです。
先天性股関節脱臼の治療は保存療法が主体で、消炎鎮痛薬、筋力強化目的のリハビリテーションが行われます。
東洋医学では漢方薬や鍼灸、マッサージなどが効果的です。
主に、血流の改善と筋肉の柔軟性の向上を目的に行われます。
大腿骨頭壊死
大腿骨頭壊死とは、何らかの原因で大腿骨の骨頭部分に栄養を送っている血管が血流不全に陥り、骨頭部分が壊死してしまう病気です。
国の特定疾患に指定されています。
大腿骨頭壊死の原因はステロイドなどの大量内服、アルコールの過剰摂取などが言われていますが、実際の原因は不明です。
消炎鎮痛薬の内服の他、リハビリテーションでは股関節に負荷をかけないための生活指導が行われます。手術療法では、自分自身の股関節を保存する方法と人工関節に入れ替える方法が選択されます。
東洋医学の治療は主に疼痛緩和と血流の維持・回復目的で行われます。一度壊死した組織の回復は現段階では東西医療ともに不可能で、今後の再生医療に期待するしかないのが現状です。
しかし、痛みの改善により日常生活は劇的に改善します。
関節リウマチ
関節リウマチとは、身体の内側を覆っている滑膜に炎症を起こし関節の痛みや腫れ、こわばりなどを引き起こす自己免疫疾患です。
本来、細菌やウイルスなどの外敵から身を守るための免疫機能が、何らかの理由によって自分の正常な細胞を攻撃してしまう病気を刺します。
関節リウマチを発症すると、関節面で炎症が起こります。炎症が続くと軟骨、骨が破壊され、関節の変形や脱臼、癒着などを引き起こします。
これが股関節で起きると、股関節の痛みの原因になります。
関節リウマチの診断は血液検査が実施されます。
赤沈、CRPという体内の炎症を示す数値や、軟骨の破壊に関係してくるMMP-3という値が高くなります。また、リウマチ因子や抗CCP抗体が低くてもリウマチの診断をされる場合もあります。
関節リウマチの治療は日常生活の改善、投薬による内科的な加療、関節の機能を維持するためのリハビリテーション、進行例では手術が適用になります。
東洋医学もWHOで有効とされています。漢方薬で体質改善を行ったり、鍼灸で炎症を抑えることもできます。
股関節に関して言えば、鍼で股関節周囲の筋肉の柔軟性を改善したりお灸で滑膜の滑走性を高める治療が有効です。
感染
感染症で股関節に炎症が起きることがあります。
なんらかの原因で股関節の内部に細菌が侵入し、炎症を起こします。感染による関節の炎症は95%が急性のものが占めています。
症状は、発熱と局部の痛みです。
検査は関節内部の関節液を採取し、白血球数や原因細菌の検査をします。
原因菌によっては、数日で関節内部の軟骨が破壊される場合があるため早期の治療が必要になります。
西洋医学的に早急に治療する必要があります。
鼠径ヘルニア
鼠径ヘルニアとは、太腿の付け根付近で起きるヘルニアです。体内にある身体の仕切りに異常が起き、組織が本来の位置から逸脱してきた現象のことを言います。8〜9割は男性です。
鼠径部で起きる場合、多くが『脱腸』によるものです。飛び出した臓器は大腸や小腸、卵巣であることが多く、進行すると腸管が出たり入ったりするようになります。
治療は手術療法が主に選択されます。
年間15万件以上の手術が行われており、実は盲腸の手術よりも良く行われている手術です。
大腿骨頚部骨折
大腿骨頸部骨折とは太腿の骨である大腿骨の頚部と呼ばれる部位に骨折が起こる病気です。
生活習慣の乱れや運動不足、加齢などで骨粗鬆症が進むと骨がもろくなります。この時に転倒などの強い外力が加わることで大腿骨頚部骨折が引き起こされます。
大腿骨頚部骨折が起きると日常生活の質がひどく低下します。手術で骨折部位を整復し、安静にする必要があります。
高齢者が発症すると寝たきりの原因になりますので何より予防が大切になる病気です。
まとめ
股関節の痛みが出現する病気の代表的なものをご紹介いたしました。
股関節の痛みは様々な理由で引き起こされますが、西洋医学での歴史は浅くまだまだ治療法が確立されているとは言えないようです。
特に、それまでは痛みを感じていなかったのに急に痛みを感じるようになったり、検査しても特に問題を指摘されなかった場合には、治療を受けて効果を実感できる場所をしっかり見つける必要があります。
臼蓋形成不全や変形性関節症は早期であれば改善できる場合も多いので、担当の先生と相談して自身が納得できる治療を受けてください。
筆者情報
小野修司
鍼灸師・スポーツ健康科学修士
鍼灸師の免許取得後、技術と知識の研鑽のために福岡大学大学院に入学。
スポーツ医学を学びながら関節運動の研究を行い修士号を取得。
大学院に通いながら地域の病院やアスリートのケアを行い臨床経験を積んだ。
福岡大学病院東洋医学診療部に鍼灸師として初めて入職を果たし外来診療も担当。
その後、培った技術を大学病院以外でも活かすため福岡市西区今宿に鍼灸院おるきを開院。
1年後、福岡市中央区唐人町に鍼灸院おるき唐人町治療院を開院。
現在に至る。