膝関節痛
また、膝関節に関連する大腿四頭筋は身体の中でも最も大きい筋肉で、立つ時や歩行時に身体を支えます。
膝関節が悪くなると、この大腿四頭筋が充分に活用できなくなり、生活習慣病のリスクが上がったりサルコペニアやロコモーティブシンドロームの原因になります。
健康な老後を送るためには膝関節の健康が何より重要になってくるのです。
ここでは、膝の痛みを症状とする病気の種類をご紹介します。
また、それぞれのページではお悩み別に対処法、西洋医学での対処法、東洋医学での対処法や当院の見解をご紹介いたします。
▼目次
変形性膝関節症
変形性膝関節症とは膝関節を形成する骨や軟骨がすり減って変性した状態のことです。太腿の骨である大腿骨と下腿の骨である脛骨の間で軟骨の減少や骨の変性、骨棘の形成が進むことで膝関節の形状が正常なものから逸脱し、膝関節が正常な動きを行えなくなります。
原因は病気によって異なりますが、筋肉の過緊張や関節の連動性の低下が原因で膝関節に負荷がかかることで痛みを発症します。負荷のかかる部位の違いで痛める箇所が変わってきます。
膝の痛みの原因は『加齢、体重、遺伝、生活環境』と考えられているのが主流ですが、これに対する根拠はなく、実際の原因は不明とされています。
検査はレントゲンやMRIによる画像診断が主体です。
膝関節で痛みを感じる場合、軟骨部分で痛みを感じるわけではありません。軟骨部分に痛覚はなく、関節運動で関節内圧が高まった際にかかる過負荷などが原因で炎症が起き、痛みを感じる神経伝達物質(サイトカイン)が放出されます。
このサイトカインを受容体がキャッチした際に痛みを感じます。
初期では疲労した時や寒い日などに膝関節の痛みを感じ、歩行や階段の上り下り、車の乗り降りなどで痛みが出てきます。
ひどくなってくると立っているだけでも症状が現れます。まっすぐ立てなくなり、痛みのせいで仰向けで足を伸ばすことができなくなります。また、寝ていても寝返りの際に痛みで目が醒めるなど、日常生活に大きな支障をきたします。
膝関節の周りの筋肉を鍛えるリハビリが主流です。(当院の見解は異なります。)保存療法として投薬治療、膝の牽引、ヒアルロン酸注射などが行われますが効果は限定的です。
ガイドライン上は生活習慣の改善を促す生活指導が主体とされています。
状態が悪化してくると手術で人工関節に入れ替える人工関節置換術が行われます。
東洋医学では膝関節周囲の筋緊張の緩和や血流の改善などを目的に治療します。
痛みの改善を行うことで日常生活は劇的に改善します。
半月板損傷
半月板損傷とは、膝関節を形成する骨の間でクッションの役割を果たしている軟骨様の板が外力で損傷を受けた状態のことを言います。
原因は大きく分けて2種類あり、スポーツなどで膝に体重がかかった時にひねりながら伸ばすなどの強い負荷がかかった際に発症するものと、軟骨の変性が原因で衝撃に弱くなり、少しの負荷で割れてしまうものがあります。
スポーツによる半月板損傷では前十字靭帯の損傷を合併するものもあります。
半月板に痛覚はないため、実際に困るのは関節の炎症に伴う膝の痛みとロッキングと呼ばれる急に膝が動かなくなるという現象になります。
どちらも膝関節周囲の筋肉を柔軟に保っておくことで改善と予防ができます。
整形外科ではまずは保存療法が取られます。温熱療法、筋力トレーニング、ストレッチ、ヒアルロン酸などの関節注射が主体です。関節注射のリスク/ベネフィット比ではヒアルロン酸よりもステロイドの方が優秀で、海外ではステロイドの方が選択されています。日本の整形外科学会でも発表がされていますが、なぜかステロイドよりもヒアルロン酸が好まれます。
早期に手術を勧める傾向にあるようですが、半月板損傷の診療ガイドラインでは
半月板損傷の部分切除・全切除をした患者の97%で変形性膝関節症の進行がみとめられる
と報告されています。変形性膝関節症が進行しなかった3%に入る自信がある場合には手術も良いかもしれません。
ストレッチや筋力トレーンングでは膝関節に負担がかかるため西洋医学よりも東洋医学でのアプローチが有効になります。
鍼灸治療やマッサージで膝関節周囲の筋肉の柔軟性を改善し、その後ストレッチをすることで膝関節への負担が少ない状態で筋肉を伸ばしていくことができます。
半月板損傷の診断はレントゲンではなく、MRIによる画像診断で行われます。
靭帯損傷
膝関節には4種類の靭帯があります。前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靱帯、外側側副靭帯です。
スポーツや交通事故など大きな外力が加わった時に、その外力の方向によって損傷する靭帯が異なります。
膝関節が滑らないように支持する組織であるため、損傷や断裂によって膝関節が動揺するようになります。
治療は保存療法が主体です。内側側副靱帯損傷は保存療法でも治癒することが多く、装具で固定し可動域訓練などのリハビリテーションを行うことでほとんど治癒します。後十字靭帯損傷ではスポーツや日常生活に支障をきたすことがほとんどないため保存療法が主体ですが、前十字靭帯損傷では競技に支障をきたすことがあるため、手術療法に踏み切ることがあります。
東洋医学の治療は補助的に行われます。東洋医学を受けたからといって損傷した靭帯が回復することはありません。関節の動揺性が上がり筋が疲労しやすくなるため、鍼灸やマッサージで筋肉が正常に動く状態を保つよう治療が行われます。
関節リウマチ
関節リウマチとは、身体の内側を覆っている滑膜に炎症を起こし関節の痛みや腫れ、こわばりなどを引き起こす自己免疫疾患です。
本来、細菌やウイルスなどの外敵から身を守るための免疫機能が、何らかの理由によって自分の正常な細胞を攻撃してしまう病気を刺します。
関節リウマチを発症すると、関節面で炎症が起こります。炎症が続くと軟骨、骨が破壊され、関節の変形や脱臼、癒着などを引き起こします。
これが膝関節で起きると、膝関節の痛みの原因になります。
関節リウマチの診断は血液検査が実施されます。
赤沈、CRPという体内の炎症を示す数値や、軟骨の破壊に関係してくるMMP-3という値が高くなります。また、リウマチ因子や抗CCP抗体が低くてもリウマチの診断をされる場合もあります。
関節リウマチの治療は日常生活の改善、投薬による内科的な加療、関節の機能を維持するためのリハビリテーション、進行例では手術が適応になります。
東洋医学もWHOで有効とされています。漢方薬で体質改善を行ったり、鍼灸で炎症を抑えることもできます。
膝関節に関して言えば、鍼で膝関節周囲の筋肉の柔軟性を改善したりお灸で滑膜の滑走性を高める治療が有効です。
スポーツによる膝のオーバーユース
スポーツによる膝のオーバーユースとは、スポーツなどで繰り返し膝に強い負荷を受けた際に起こる障害のことです。オスグッド病(オスグッド・シュラッター病)、ジャンパー膝、ランナー膝(腸脛靭帯炎)、タナ障害、膝離断性骨軟骨炎などがあります。
オスグッド病は成長期の子供に多い病気で、膝蓋腱(大腿四頭筋の延長上の腱)が脛骨と付着する脛骨結節が徐々に飛び出てきて痛がる病気です。
大腿四頭筋を使うスポーツやボールを蹴るサッカーなどの競技で発症します。
成長期には、骨の成長に筋肉の成長が追いつかない『成長痛』を感じる時期があります。慢性的に筋肉の長さが足りないため、この時期に激しい運動をすると筋肉と骨の付着部に過負荷がかかります。
この過負荷が原因で骨や脛骨結節に炎症や損傷が起き、痛みを発症するのです。
レントゲンで確定診断をすることができます。
成長期が終われば痛みもなくなります。
ジャンパー膝も痛みの部位が似ていますが、ジャンパー膝の炎症や損傷は腱組織に生じます。ジャンパー膝の原因は大腿四頭筋の柔軟性の低下やストレッチ不足です。バレーボールやバスケットボールなどの競技で繰り返しジャンプ、着地、スタート、ダッシュなどを繰り返すことで膝蓋腱に炎症や変性をきたし、膝の前面に痛みを感じるようになります。
MRIで確定診断をする必要があります。
ランナー膝(腸脛靭帯炎)とは、膝の外側を走る腸脛靭帯の緊張が高くなり、大腿骨との過度の摩擦によって炎症をきたした状態のことを言います。
陸上の中、長距離選手に多い病気で、最近のマラソンブームでアスリート以外でも発症する機会が増えています。
治療はオスグッド病、ジャンパー膝、ランナー膝ともにストレッチとアイシングが非常に重要になります。痛みがひどい場合にはスポーツの休止や消炎鎮痛薬の投与が行われることもあります。
オスグッド病やジャンパー膝、ランナー膝には東洋医学の治療も効果的です。鍼灸やマッサージで筋肉の柔軟性を向上させます。伸びやすい筋肉を作ることができますので、痛みの改善に役立ちます。
鍼灸を受けた後にストレッチを行うとなお効果的です。
また、お灸による熱刺激は滑膜の滑走性を高めてくれます。痛みのある部位やその周辺の組織にお灸をすると痛みが楽になります。
タナ障害とは、膝蓋骨の内側に存在する滑膜ひだが膝蓋骨と大腿骨に挟まれることで炎症をきたした状態のことを言います。大腿四頭筋がストレッチ不足で硬くなってくると挟まれる機会も増えてきます。
基本的には運動制限で治療しますが、重度になってくると手術も選択されます。
鍼灸では大腿四頭筋の柔軟性を向上させたりお灸で滑膜の滑りを良くする治療が行われます。
膝離断性骨軟骨炎とはスポーツ選手に多い病気で、膝の軟骨が変性することにより痛みや違和感を感じるようになります。
繰り返される強い負荷で軟骨下の骨が壊死し、骨軟骨辺が遊離します。
初期には軟骨片の遊離はなく、関節の違和感や痛みもありません。
軟骨に亀裂や損傷が生じると痛みや違和感が出現し、さらに状態が進むと軟骨片が遊離します。違和感が強くなったり、関節運動の際に引っかかりを感じ円滑な動きができなくなります。
成長期など骨や軟骨が伸びている段階では保存療法が選択され、自然に回復することがあります。
回復がない場合には手術が選択され、組織の回復を促す手術や骨軟骨片が小さい場合には除去、クリーニング手術のみが行われることもあります。
東洋医学の治療は軟骨の遊離前には効果を発揮しますが、遊離後は限定的です。
初期などに鍼灸やマッサージで、主に予防目的での治療を行うことで症状の改善が図れたり悪化させないための措置を取ることができます。
膝蓋骨脱臼
膝蓋骨脱臼とは膝蓋骨が正常位置からずれてしまった状態のことを言います。
ほとんどが外側への脱臼です。
バレーボールの着地など、大腿四頭筋に強い力が加わった時に起きることが多く、一度脱臼してしまうと半数が繰り返し脱臼します。
初回の脱臼時には骨折を伴うことが多いため、必ず整形外科を受診しレントゲンを撮る必要があります。
治療は保存療法が選択され、脱臼した膝蓋骨を整復し装具で固定します。重症例では手術の対象になります。
スポーツ復帰には2ヶ月以上かかります。
スポーツを辞めてからも、反復性脱臼になっている人は手術の対象になります。
2回目以降の脱臼では痛みを伴わないこともあり、自然に整復されることもあります。
東洋医学の効果は、脱臼後はありません。予防のためにあらかじめ受けておく必要があります。
膝関節捻挫
膝関節に強い力が加わり、通常の可動域を超えて骨が動いた際には膝関節の捻挫と診断されます。骨折や脱臼を伴わない程度の軽症のものに限ります。
症状は膝関節水腫や腫れ、炎症、痛みですが、骨折がないためレントゲンでは映りません。MRIで半月板や軟骨、靭帯などの組織損傷がないかを確認しておく必要があります。
痛みが無くても、腫れや不安定感を感じた場合にはすぐに病院で診察を受けてください。
東洋医学的な加療では予防が中心になります。
鍼灸やマッサージなどで、膝関節の柔軟性を保つ必要があります。
まとめ
膝関節の痛みが出現する病気の代表的なものをご紹介いたしました。
膝関節のリハビリテーションでは膝関節周囲の筋力トレーニングが主体です。しかし、痛みを感じている状態で筋力トレーニングを行っても充分な筋出力が発揮されず、膝関節周囲の筋力が強化されるに充分なトレーニングが行われないのが現状です。
効率よく膝関節の状態を改善させるためにはまずは膝関節周囲の除痛を行い、関節面への負荷がかからない状態を作った上での筋力トレーンングが望ましいです。
また、医療従事者の間ですらあまり知られていませんが膝関節はわずかに回旋(ひねる)運動をする能力があります。
膝関節の回旋能力が失われると膝関節の負担も増してきますし、ただ曲げ伸ばしをするリハビリテーションではこの能力は回復できません。
かと言って、ただひねれば良いというものでもありません。
我々治療する側も含めて、膝関節の構造を理解した上で治療に携わる必要があります。
筆者情報
小野修司
鍼灸師・スポーツ健康科学修士
鍼灸師の免許取得後、技術と知識の研鑽のために福岡大学大学院に入学。
スポーツ医学を学びながら関節運動の研究を行い修士号を取得。
大学院に通いながら地域の病院やアスリートのケアを行い臨床経験を積んだ。
福岡大学病院東洋医学診療部に鍼灸師として初めて入職を果たし外来診療も担当。
その後、培った技術を大学病院以外でも活かすため福岡市西区今宿に鍼灸院おるきを開院。
1年後、福岡市中央区唐人町に鍼灸院おるき唐人町治療院を開院。
現在に至る。