肩関節痛・五十肩
肩関節は人体では最も可動域の広い関節です。可動域が広い分、関節単体で見ると非常に不安定、多関節連動の観点から考えると他の関節の影響を受けやすい関節です。
肩の痛みや五十肩の治療では、肩だけに注目していても良くなることは少なく、適切な治療を受けていなかったら治療が長引いたり場合によっては数年かかってしまうこともあります。
ここでは身近な肩関節痛の種類、西洋医学で原因とされているものについてご紹介し、各ページで当院の見解と治療方法についてご紹介させていただきます。
また、それぞれのページではお悩み別に対処法、西洋医学での対処法、東洋医学での対処法や当院の見解をご紹介いたします。
▼目次
五十肩
五十肩は正式名称を肩関節周囲炎と言い、その名の通り、肩関節周囲の筋肉や腱、靭帯などが何らかの原因で炎症を起こし、肩関節部分に痛みを感じる状態のことを言います。
炎症の主な原因は滑膜の滑走性の低下や筋の過緊張などで、肩周囲だけではなく一連の動作に関わる全ての関節を確認する必要があります。
五十肩の症状は肩が痛くて手が上がらない、髪の毛を結ぼうとしたら肩が痛い、腰に手を回そうとしたら肩が痛い、遠くの物を取ろうとしたら肩が痛いなどです。
五十肩は、初期には強い痛みがありますが他動運動での可動域は確保されています。この期間での治療は比較的容易で、肩関節に負荷をかけている組織を突き止め施術することで改善します。
状態が悪くなってくると夜間痛や可動域制限に悩まされることになります。
可動域制限が起こった状態で放置していると、肩関節の拘縮や内部の組織の癒着が進みます。
この状態をさらに放置すると難治性の五十肩である凍結肩に進行します。
東洋医学では漢方薬や鍼灸が有効です。
関節内部の血流を増加させる漢方薬で体質改善が図れます。鍼灸では即効性のある治療が期待できます。早く生活の質(QOL)を改善させたい方におすすめです。
腱板炎、腱板損傷、腱板断裂
腱板は肩甲骨と上腕を結ぶ筋肉で、棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋の4つの筋肉で構成されます。この腱板に炎症が起きると腱板炎、部分的に穴が空いたり損傷がある場合には腱板損傷、切れた場合には腱板断裂になります。
腱板の炎症は、肩周囲の筋肉を使いすぎるオーバーユースなどが原因です。
特に、柔軟性のない筋肉を使うと腱や関節、軟部組織に過負荷がかかります。
その状態でスポーツなどの反復した動作を行うことで腱板に炎症をきたします。
腱板が損傷・断裂する理由は加齢によるものとされていますが、断裂の理由は明らかになっていません。また、腱板が断裂しても痛み症状が出る人は全体の30%程度で、70%の方は腱板が切れたことにも気づきません。
肩の痛みで悩んでいる人の多くがMRIによる検査で腱板の断裂を指摘されますが、痛点がないため断裂が痛みの原因ではありません。
肩の痛みと腱板の断裂に直接の因果関係がないことが多いため、しっかり診断を受けることが大切です。
東洋医学では漢方薬や鍼灸で腱板の血流を改善させることで早期の回復が見込めます。また、肩の痛みの原因になっている部位を判断できれば痛みの早期改善が期待できます。
変形性肩関節症
変形性肩関節症とは肩関節を形成する骨や軟骨がすり減って変性した状態のことです。上腕骨と鎖骨、肩甲骨の間で軟骨の減少や骨の変性が進むことで肩関節の形状が正常なものから逸脱し、肩関節が動く際に痛みを伴うようになります。
検査はレントゲンやMRIによる画像診断が主体です。
肩関節で痛みを感じる場合、軟骨部分で痛みを感じるわけではありません。軟骨部分に痛覚はなく、インピンジメントなどが原因で起きる組織の挟み込みや炎症で痛みを感じる神経伝達物質(サイトカイン)が放出されます。
このサイトカインを受容体がキャッチした際に痛みを感じます。
物を取ろうとした時、髪を洗う時、洗濯物を干す時、夜、眠る時など、日常生活のあらゆる場面で不具合が生じます。
肩関節の周りの筋肉を鍛えるリハビリが主流です。(当院の見解は異なります。)
東洋医学では肩関節周囲の筋緊張の緩和や血流の改善などを目的に治療します。
痛みの改善を行うことで日常生活は劇的に改善します。
スポーツによるオーバーユース
スポーツが原因で起こる、いわゆる使い過ぎ症候群です。
スポーツでは同じ動作を繰り返すため、関節に負担がかかっていると炎症が起きやすく、そのまま競技を続けていると故障につながります。
野球肩、水泳肩、ゴルフ肩などが有名です。
オーバーユースの原因は一つは単純に使いすぎ、もう一つは関節に過負荷がかかっている場合に起こります。
関連する筋肉の過緊張、動きの連鎖の不具合などが関節への負荷を増やす原因になります。
進行すると、肩関節の軟骨(関節唇)が損傷したりすり減って脱臼しやすくなったり、ひどい場合には壊死して骨ごと欠けたりします。
西洋医学での治療は運動制限、アイシング、インナーマッスルトレーニングなどの保存療法が主体で、ひどくなると手術が選択されます。
東洋医学では疲労部位への鍼灸施術やマッサージが有効になります。
プロスポーツ現場で活躍するトレーナーの7割以上が鍼灸の免許を取得しており、第一線で活躍する選手、トレーナーは鍼灸治療の効果を知っています。
関節リウマチ
関節リウマチとは、身体の内側を覆っている滑膜に炎症を起こし関節の痛みや腫れ、こわばりなどを引き起こす自己免疫疾患です。
本来、細菌やウイルスなどの外敵から身を守るための免疫機能が、何らかの理由によって自分の正常な細胞を攻撃してしまう病気を刺します。
関節リウマチを発症すると、関節面で炎症が起こります。炎症が続くと軟骨、骨が破壊され、関節の変形や脱臼、癒着などを引き起こします。
これが肩関節で起きると、肩関節の痛みの原因になります。
関節リウマチの診断は血液検査が実施されます。
赤沈、CRPという体内の炎症を示す数値や、軟骨の破壊に関係してくるMMP-3という値が高くなります。また、リウマチ因子や抗CCP抗体が低くてもリウマチの診断をされる場合もあります。
関節リウマチの治療は日常生活の改善、投薬による内科的な加療、関節の機能を維持するためのリハビリテーション、進行例では手術が適用になります。
東洋医学もWHOで有効とされています。漢方薬で体質改善を行ったり、鍼灸で炎症を抑えることもできます。
肩関節に関して言えば、鍼で肩関節周囲の筋肉の柔軟性を改善したりお灸で滑膜の滑走性を高める治療が有効です。
まとめ
肩関節の痛みが出現する病気の代表的なものをご紹介いたしました。
関節は単独で動くことは少なく、相互に影響しあって動きます。この運動連鎖がスムーズにいかないせいで、肩からはかけ離れた筋肉に原因があって肩に痛みを感じることもあります。
いずれにしても、数回の治療でも改善が実感できない場合、治療する側が原因を突き止められていない可能性が高いのでセカンドオピニオンを考えるタイミングでしょう。
筆者情報
小野修司
鍼灸師・スポーツ健康科学修士
鍼灸師の免許取得後、技術と知識の研鑽のために福岡大学大学院に入学。
スポーツ医学を学びながら関節運動の研究を行い修士号を取得。
大学院に通いながら地域の病院やアスリートのケアを行い臨床経験を積んだ。
福岡大学病院東洋医学診療部に鍼灸師として初めて入職を果たし外来診療も担当。
その後、培った技術を大学病院以外でも活かすため福岡市西区今宿に鍼灸院おるきを開院。
1年後、福岡市中央区唐人町に鍼灸院おるき唐人町治療院を開院。
現在に至る。